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個別大学の入試問題作成支援に関する研究

令和8年3月26日
(取材日:令和8年2月12日)
非教科・科目型試験の作題方法に関する研究
トップイラスト
近年、総合型選抜や学校推薦型選抜を利用して大学に入学する受験者が増えている。これらの方式では、一般選抜のように教科・科目別の試験を課さずに、小論文やプレゼンテーションや面接で合否を決めるケースが少なくない。そこで求められるのが、大学で学ぶために必要な能力を教科・科目別ではない形で測る試験だ。大学入試センターの研究開発部では、こうした非教科・科目型試験を各大学がつくる際に参考にできる「作題ガイドライン」の開発を行っている。研究開発部で詳しく話を聞いた。
(取材・文 丸茂健一/minimal)

INDEX

多様な学びを経た志願者たちの「大学で学ぶための能力」を測るには

総合型選抜、学校推薦型選抜という言葉もすっかり一般的になってきた。文部科学省が公表した資料によれば、令和7年度選抜では、全国の大学入学者のうち、一般選抜による入学者は46.3%で半数を下回っており、総合型選抜による入学者は19.5%、学校推薦型選抜による入学者は34.1%となっている。私立大学では、入学者の6割以上が総合型選抜や学校推薦型選抜で入学している。

大学に入学した後は、様々な選抜を経た学生が一緒に学ぶことになるわけだが、入学までに力点をおいて学んだ教科・科目が人によって異なる状況において、大学で学ぶための能力を十分に有しているかをみるにはどうしたらよいのか——。そこで、大学入試センター研究開発部では、既存の教科・科目別の学科試験とは異なる観点から大学で学ぶために必要な能力を評価することを目的とした試験の開発に関する研究を、2011年度から進めてきた。研究開発部高大接続研究部門でこのプロジェクトを統括する椎名久美子教授はこう語る。

【写真1_椎名T①】DSC03557
「開発の当初、推薦入試やAO入試(当時の選抜方法の名称)が拡大するなかで、学力不問の選抜になってしまう懸念や、同じ学科内でも選抜方法によって学習背景が不揃いになる課題が指摘されるようになっていました。そこで、教科・科目別の試験ではない形で、大学で新しいことを吸収するために必要となる基本的な能力を測る試験の必要性が認識され、この研究を始めました」

「言語運用力」「数理分析力」という2分野を設定

大学で学ぶための能力とは何か——。このプロジェクトでは、それを、大学での学びにおいて、新たな問題を自ら発見したり、既有の知識だけでは解決できない問題に取り組んだりするために必要となる能力ととらえて、さまざまな情報源から新しい知識を吸収してその本質を把握する能力や、具体的な出来事から共通点や矛盾点を見出して論理的に考える能力であると考えた。そして、大学でどの分野を学ぶ場合でも必要になるこれらの能力を教科・科目別の試験とは異なる観点から測るために、「言語運用力」および「数理分析力」という2分野からなる「新しい試験」を開発することにした。

この「新しい試験」は、総合型選抜や学校推薦型選抜で用いることが想定されているが、入学が決まった人たちの能力把握のために用いることも考えていいだろう。各大学がこの「新しい試験」を導入しようとする場合、その枠組みや問題をつくる作業の手がかりとなるものが必要になる。そこでスタートしたのが、「『言語運用力・数理分析力』試験の枠組みおよび作題ガイドライン(以下、作題ガイドライン)」を開発するプロジェクトだった。

「まず、研究開発部で試作した『新しい試験』の問題を高校2年生や大学1年生を対象としたモニター調査で解いてもらい、調査結果の分析を行いました。次に、言語運用力・数理分析力を測る試験問題を大学教員(入試問題を作成する方々)がどのようにしたら作成できるのかについて文書化することを(当時の)プロジェクトのメンバーで検討し、問題作成の手引書として2016年に公開したのが『作題ガイドライン』バージョン1です。さらに、作成した手引書をもとに大学教員が実際に問題を作れるかを検証しました。具体的には、複数の大学教員に対して、作成した手引書にもとづく問題作成を依頼し、協力いただいた大学教員からの意見を反映させて改訂したものが、2019年に公開した『作題ガイドライン』バージョン2で、現在に至ります」

そう語るのは、初期から作題ガイドラインの開発に携わる桜井裕仁教授だ。
ガイドラインの構成は三つのパートに分かれている。第1パートは試験の目的と枠組み、第2パートは「言語運用力」と「数理分析力」という2分野の説明、第3パートが実際の作題者向けのガイドラインとなる。第3パートでは、問題のつくり方、問題のレビュー方法(作成された問題を出題前に点検する方法)、問題冊子の編集方法について詳細に説明されている。

【写真2_桜井T①】DSC03563
「ガイドラインはあくまで基本的な枠組みを示すもので、各大学が志願者に求める能力や入学後に学ぶ分野に応じて、内容を調整して使うことを想定しています。また、総合型選抜や学校推薦型選抜での使用を想定しており、面接や小論文などの他の選抜方法と組み合わせて活用してもらいたいと考えています」(桜井教授)

大学入学後の講義理解に必要な読解力を評価する「言語運用力」試験

気になる内容を見ていこう。前述の通り、「新しい試験」では、「言語運用力」と「数理分析力」の2分野で「大学で学ぶための能力」を測定する。解答するのに必要な情報は問題の中で与えられるが、義務教育段階までの知識は習得していることを前提としている。
「言語運用力」試験は、大学入学後の講義理解や主体的な学びに必要な読解力を評価することを目的としている。文章を批判的に読んで自分の意見を構築したり、新たな問題を自ら発見したり、既存の知識だけでは解決できない問題に取り組んだりする能力だ。そこで、「言語運用力」試験では、測ろうとする能力を三つのラベルで分類した。それが以下のL1〜L3である。

【測ろうとする能力】
L1:情報の把握=文章内の情報を正しく読み取る能力
L2:内容の理解=文章の内容の理解や解釈を行う能力
L3:推論と推察=内容の理解にとどまらず、推測、評価、判断等を行う能力

【写真3_伊藤T】DSC03573
ここで、「言語運用力」試験の研究に携わる伊藤圭准教授が、具体例として会話文と地図を対応させて情報を読み取る問題を紹介してくれた。
「この問題例では、会話文を読んで市役所の位置を特定する問題(L1)や、条件から郵便局に最も近い場所を推測する問題(L2)が課されています。これらの問題は、特定の教科知識に依存せず、問題文の情報だけで解答できる構造になっています」
【図1】(言語)問題例データ「言語運用力」試験の問題例

数理的・計量的な考え方や方法論を理解する能力を測る「数理分析力」試験

一方、「数理分析力」試験は、大学でのさまざまな分野の学習において、普遍的に必要と考えられる数理的・計量的な考え方や方法論を理解し、適用する能力を測ることを目的としている。特に、複雑で大規模なデータからの情報抽出やデータに基づく推論・問題解決をする能力は、分野にかかわらず重要である。「数理分析力」試験では、測ろうとする能力を四つのラベルで分類した。それが以下のM1〜M4である。

【測ろうとする能力】
M1:数理的な表現・原理の理解
数理的・計量的な方法に関わる基本的な表現、公式・原理についての知識と理解の能力
M2:ルール・法則性の理解と適用
種々の現象・問題に関わるルールや法則性についての理解とその適用の能力
M3:資料からの情報抽出・分析
種々の資料からの情報の抽出やそれに基づく分析に関する知識と理解の能力
M4:帰納的・演繹的推論の適用
帰納的・演繹的に推論を行い、種々の現象・問題を把握・解決する能力

【写真4_桜井T②】DSC03577
「数理分析力」テストの研究に携わる桜井教授が、具体例として紹介してくれたのは、折れ線グラフを読み解く問題だ。
「この問題例では、上段の表と下段のグラフの対応関係の読み取り(M3)、平均点差の計算(M1)、平均点差の最大値・最小値の特定(M1とM3の組み合わせ)といった問題が課されています。これらは数学だけでなく、地理や公民、理科など他の教科でも必要とされる能力を測定するものになっています」
【図2】(数理)問題例データ「数理分析力」試験の問題例

作題ガイドラインを試験の開発に活用した大学も

作題ガイドラインの活用イメージ

作題ガイドラインを、試験を開発する際に役立てた大学もある。ある大学の学部では、学校推薦型選抜で基本的な能力をみるために、作題ガイドラインを参考にして「総合問題」という形の試験を開発した。その試験では、「言語運用力」や「数理分析力」のラベルを参考にして、推論能力をより細かく帰納的推論、演繹的推論、仮説的推論に分類するなど、大学独自のカスタマイズが行われた。研究プロジェクトのメンバーである荒井清佳准教授はこう語る。

「また、『言語運用力』試験を学習支援に役立てる試みを行った大学もあります。試作問題のモニター調査にご協力いただいたある大学では、入学時の『言語運用力』試験の結果と入学後の成績等との関連を分析しました。分析の結果として、試験の得点と大学1年次(春学期)のGPAを用いて学生を4タイプに分けることで、学生の学習支援のあり方を検討するための材料として活用できるとしています」

一定の品質の試験を継続的に作成する手がかりとして活用してほしい

年内に合否結果が出ることが多い総合型選抜や学校推薦型選抜の利用は、今後ますます進むと予想される。多様な学びの背景を持つ幅広い学力層の受験者が大学に進学する新たな時代において、非教科・教科型試験を作成する手がかりとなる作題ガイドラインの役割は大きくなるだろう。各大学にどのように作題ガイドラインを活用してほしいか……最後に椎名教授に今後のビジョンについて伺った。
【写真5_椎名T②】DSC03560
「各大学では、こんな受験者に入学してほしいというメッセージとなるアドミッション・ポリシーを掲げています。アドミッション・ポリシーを踏まえた上で、一定の品質の試験を継続的に作成するための手がかりとしても、このガイドラインを活用してほしいと考えています。問題作成者が代わっても安定した難易度と識別力を持つ試験をつくり続けるためには、各大学が、明確に文書化された規準を備えておく必要があります。大学を対象とした実態調査では作題や採点にかかる負担という課題も見えてきました。この作題ガイドラインには、問題を点検する観点や、問題冊子を編集する際の注意点も記載していますので、各大学でよい問題を作成する際の作業指針としても活用していただければと考えています」
【写真6_集合】DSC03594