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研究成果記事

国際標準規格に準拠したCBTの出題形式を開発し、電気通信大学の令和7年度大学入学者選抜で活用
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独立行政法人大学入試センターでは、世界的に活用が進むCBT(Computer Based Testing)の調査研究を10年以上前から進めている。今後、大学入学共通テストにも加わる教科「情報」でのCBT活用にも注目が集まる。CBTを取り巻く現状と今後の展望について、調査研究のメンバーである研究開発部の宮澤芳光准教授に聞いた。
(取材・文 丸茂健一/minimal)

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国内外で加速する各種試験のCBT化

近年、英語力評価テストなどの分野で、「CBT」という言葉をよく目にする。これは、Computer Based Testingの略。つまり、パソコンやタブレット等を用いたコンピュータ版のテスト形式を指す。これに対し、従来の紙と鉛筆による試験は、PBT(Paper-Based Testing)と呼ばれている。
 
独立行政法人大学入試センター(以下、大学入試センター)では、国内外における各種試験のCBT化の動向を踏まえ、平成23(2011)年からテスト理論や情報技術など各分野の有識者に参画してもらい、独自にCBTの調査研究を進めてきた。主な理由としては、令和7(2025)年度 大学入学共通テスト(以下、共通テスト)から新たに加わる「情報I」におけるCBTの活用に期待する関係者の声も多かったという。確かに、「情報I」の出題内容が、パソコンで受けるテスト形式と相性がいいことは専門家でなくとも容易に想像がつくだろう。
 
「大学入試センターでもCBTを用いて、「情報I」の試験を実施できる環境の構築を検討してきました。ただ、全国的に均質で、質の高い受験環境を早急に整備することは難しく、令和7年度共通テストにおける「情報I」の試験は、PBT形式で行うことが決まりました。共通テストのような大規模試験で活用するためには、受験環境の整備に加えて社会的な理解も必要です。そこで、大学入試センターではCBTに関する調査研究を引き続き進めていくこととし、当面は各大学の個別試験への活用を促すことからスタートする計画が進んでいます」
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そう語るのは、大学入試センター研究開発部の宮澤芳光准教授だ。今後、日本の大学入試においてもCBTの導入が広がることは間違いない。そこで、課題となるのは、大学間のデータ共有の問題だという。共通の基準がないまま各大学が独自のCBTシステムを開発すれば、データ活用の点でロスが大きい。当然ながら、コスト面でも個別開発のメリットは少ないだろう。そこで、大学入試センターがリーダーシップを執り、国際標準規格に準拠したCBTシステムを普及させるというのが今回のCBT開発プロジェクトの目的だという。
 
「CBTの標準規格として、国際標準化団体1EdTech Consortium(以下、1EdTech)が策定したQTI (Question & Test Interoperability)が世界的に知られています。QTIは、異なるシステム間で情報共有するためにデータ構造が定義されています。文部科学省でもQTIに準拠したプラットフォームを利用して、CBTシステムを開発しています。そこで、大学入試センターでも同様のプラットフォームで、CBTの出題モジュールを開発しています」

拡張性を重視したPCIモジュールを開発

文部科学省のCBTシステム「MEXCBT」には、TAOと呼ばれるCBTプラットフォームが採用されている。そこで、大学入試センターでは、TAO上で動作する「PCIモジュール」と呼ばれるプログラムを開発している。PCIは、Portable Custom Interactionsの略で、拡張性を重視した出題形式の仕組みだと考えていいだろう。

※PCIモジュールの利用方法等はPCIモジュールについてのページをご覧ください。
 
大学入試センターが独自開発したPCIモジュールは、「短冊型コードを用いたプログラミング問題」と「クロス集計や散布図を用いたデータ活用問題」を出題できる。詳しく見ていこう。

「短冊型コードを用いたプログラミング問題」の例

動画解説:「短冊型コードを用いたプログラミング問題」の例
(全画面表示での視聴をおすすめします。)
短冊型コードを用いたプログラミング問題」は、作問者が自由にプログラミング問題を作成して、CBTで出題できる。受験者はパソコン上で短冊型コードを並び替え、その実行結果を踏まえながらプログラムを完成させる。ドラッグ&ドロップでの操作は、CBTならではの強みだろう。

「散布図を用いたデータ活用問題」の例

動画解説:「散布図を用いたデータ活用問題」の例
(全画面表示での視聴をおすすめします。)
「クロス集計や散布図を用いたデータ活用問題」では、作問者が分析対象のデータをCSV形式で登録し、そのデータについて受験者が分析軸を設定することで散布図やクロス集計が表示される。上図は、散布図を用いた試験問題の画面例だ。受験者は、分析軸を設定することで、グループごとに分けられた散布図と回帰直線及び相関係数を踏まえて試験問題に解答できる。

「クロス集計を用いたデータ活用問題」の例

動画解説:「クロス集計を用いたデータ活用問題」の例
(全画面表示での視聴をおすすめします。)
一方、クロス集計を用いた試験問題では、受験者がクロス集計の分析軸を設定し、その集計結果やグラフを踏まえて試験問題に解答する。クロス集計の集計値は、件数、合計、平均、最大、最小に対応し、グラフは、表形式やヒートマップ、折れ線グラフ、棒グラフ、積み上げ棒グラフ、積み上げ折れ線グラフなどの描画が可能だという。

電気通信大学の大学入学者選抜でPCIモジュールを用いた試験問題を出題

大学入試センターが開発したこれらのPCIモジュールは、文部科学省令和4年度「大学入学者選抜改革推進委託事業」での活用が決定している。具体的な内容としては、国立大学法人 電気通信大学の令和7年度入学者選抜における「学校推薦型選抜」と「総合型選抜」でCBTを用いた試験が実施され、そこでPCIモジュールを用いたプログラミング問題とデータ活用問題が出題される予定だ。
 
「大学入試におけるCBTの普及には、社会全体の理解が必要です。まずは個別大学の入試から取り組み、CBTの有用性、信頼性を発信できればと思っています。大学入試センターが主導する形で、日本国内におけるCBTの標準となるシステムを整備・普及していきたいと考えています」